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三方よしが崩壊。三方よしの視点から見る「ふるさと納税」の現実

【中小企業診断士 波多江敏彦】

三方よしとは、現在の滋賀県にあたる近江に拠点を置き、江戸時代から明治時代にわたり日本各地で活躍した近江商人が大切にした考え方である。近江商人は、売り手の都合だけでなく、買い手の事を第一と考えた商売を通じて地域社会への貢献を考えて繁栄した。現在でも多くの企業が経営の指針としている。この三方とは売り手、買い手及び世の中のことである。ふるさと納税を敢えてこの三方に例えると、買い手=納税者、売り手=地方自治体、世の中=世間であるが、ここでは社会の維持・発展を担う国(総務省)とする。

さて、今年の9月に総務省より、大阪府泉佐野市など4市町を指定から外すとともに、43市町村は再申請を精査した上で、1年間の指定の継続を公表した。これらの市町村はいずれも「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」等の是正を求める通知に違反して、行き過ぎた返礼品を提供したとのことである。因みに指定から外れた4市町は、泉佐野市(大阪府)、小山町(静岡県)、高野町(和歌山県)、みやき町(佐賀県)で2018年度のふるさと納税額のトップ4である。納税受入額についてもトップの泉佐野市の約498億円を筆頭に4位のみやき町が約168億円で、多くの受入額を集めた。

上記4市町の返礼品をみてみると、泉佐野市、小山町及びみやき町はAmazonギフト券を、また高野町は旅行券などのいわゆる金券類を新たに返礼品に加えたことで、前出の「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」などの総務省の是正に反しているとのことである。総務省としては、昨年11月から今年の3月迄の半年弱で北海道根室市が3割以下の地場産品に限る適正な手法で50億円を集めたことや、全国の受入額の平均が1億円強であることなど、バランスも考慮してとのことである。

では、賛否両論はあるかもしれないが、冒頭に申し上げた「三方よし」の視点から、これらのことを考えてみる。

まず返礼品を選ぶ買い手(納税者)の視点から、やはり自分や家庭にとって欲しいもの・魅力的なものや、よりお得なものを提供する自治体に寄付をするであろう。書店に行けば、ふるさと納税でトクするマニュアル本やふるさと納税○○選、などなどが目に付き、各種サイトを見てもキレイな写真付きの魅力的な返礼品の数々を見ることができる。たしかに総務省が謳う「地方創生」「日本を元気に!」を第一に考える方も一定数おられるとは思うが、総務省のサイト情報より、本・雑誌・各種サイトの情報量が圧倒的に多く、また内容も分かりやすく、魅力的でそれらを基準に寄付する対象の自治体を決めているのが実際のところであろう。
次に売り手(自治体)の視点から、(多少の誤解を恐れずに申し上げると)この度、指定から外れた泉佐野市を始めとする4市町は、Amazonギフト券であろうが、旅行券などの金券であろうが、多くの受入金を集めたことに関しては、買い手(納税者)のハートを掴んだことには違いはないであろう。ただし売り手としては、商売の鉄則であるモラルや独自性及び商売の継続性などを考えるべきである。金券での返礼品は、他の自治体との差別化は図れないし、追随を許し、過当競争に陥ることは明確である。また地方の独自性を継続的に打ち出すことにはならない。今後に向けて各自治体(あるいは複数の自治体の連合軍)はマーケティング手法を駆使し、各自のリソースを棚卸した上で、特に商品面では特徴ある地場産品の発掘や開発を、販売促進面では運営サイトなどと協力して、思わずクリックしたくなるような生産者の思いが伝わるPOPや使用時のイメージが湧く写真映えなど、更なる工夫が必要ではないだろうか。

続いて国(総務省)の視点から、現在、ふるさと納税の認知率は93.5%、利用率は12.9%と言われている。また利用経験者の9割は再度利用したいとのことである。またその受入額もここ10年間で63倍(金額ベースでH30年は5千億円強)とのことである。制度としの導入効果は非常に高いと言える。ただし導入時の詳細な設計・ルールの発信、及び自治体との意思疎通・コミュニケーションが不足していたのではないか。今後、「地方創生」「日本を元気に!」するためには国(総務省)は地道府県・市町村の連携強化に加えて、国や地方が継続的に発展する戦略的な視点や方向性を地方と協力して打ち出すことが重要ではないだろうか。

最後に、これまで地方創生の一貫としてふるさと納税制度は普及してきた。せっかく普及してきたふるさと納税制度を下火にしてはならない。地方自治体と国(総務省)が一枚岩となり、それぞれの役割を明確にし、ふるさと納税を通じた地方創生(ひいては国の発展)の5年後、10年後のあるべき姿を描き、段階的・計画的に、「三方よし」の精神に基づいた実現を、是非とも進めてほしい。

この記事を書いた人
波多江敏彦

はたえ・としひこ/中小企業診断士。大手メーカーで営業企画、従業員教育、海外事業(タイ・韓国・台湾など)の立ち上げに携わり、退職後は国際経営学(MBA)での経験・学びを生かして、中小企業診断士として、中小のメーカー、小売・卸業を支援。産官学連携による産業発展や税の公平性の観点から、ふるさと納税制度を解説していく。

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