当サイトにはプロモーションが含まれています。

再発リスクでいっぱい!ふるさと納税で届いた「脂身だらけの黒毛和牛」騒動

【中小企業診断士 庄司桃子】

2019年10月7日、宮崎県美郷町は、ふるさと納税の返礼品で提供していた「宮崎県産黒毛和牛薄切り800g」について、「ふさわしくない品質のものを届けた」として、返礼品の一部を出荷と停止すると発表した。


2019年10月に宮崎県美郷町のふるさと返礼品の品質について、ネットやSNSを中心に問題となりました。
これは、10,000円以上の寄付でもらえる美郷町のふるさと納税返礼品「宮崎県産黒毛和牛薄切り800g」が送られてきたもののほとんど脂身であり、食べられずに廃棄せざるを得なかったということを一般消費者がツイッターに投稿したことがきっかけです。
美郷町では事件発覚後、返礼品を届けた方に連絡して品質の確認を実施して、返金や代替品の対応を行い、事件は収束に向かっています。

この事件の原因について、美郷町では下記の文章をサイトに掲載しています。
(以下美郷町ホームぺージより)

問題となった原因
(1)牛肉の返礼品の案内表示に宮崎ブランドの『宮崎牛』とその他の『宮崎県産黒毛和牛』との違いを明確に表示していなかったため、『宮崎県産黒毛和牛』を『宮崎牛』と勘違いされる方もおられたと思います。
(2)返礼品等の発送が忙しくなり、人員不足が生じ十分な品質管理の体制が整わないまま製造発送をしていました。
 通常は、「牛肉のカット、トレイ盛り」1名、「ラップ掛け」1名、「包装出荷」1名を配置して、各工程の3段階で規格品質のチェック体制を取っていましたが、問題のあった返礼品を製造発送した9月13日は、「ラップ掛け」の担当1名が昼休憩に入ったため、「牛肉のカット、トレイ盛り」の担当がそのまま「ラップ掛け」の作業を行い、チェック体制が1名抜けてしまいました。

また、1名少なくなったことにより忙しくなったので、チェックの時に脂身が多いような気がしたが、「包装出荷」の最終段階でチェックがされると思ってしまいました。
しかし、本来なら「包装出荷」の前に一時冷凍保存を行い、「包装出荷」の時に温度管理された部屋でラップ内側の水分が解凍されて、中身をチェックして包装出荷しますが、出荷時間に追われてラップ内側の水分が白く凍ったままで、中身がチェックできないまま発送したことが原因でした。


原因はサイト掲載の表現と、人出不足が原因とのことです。
そのうち、「宮﨑牛」と「宮﨑黒毛和牛」の違いについてはいったん脇において、今回は「人手不足」について焦点を当てます。

筆者は中小企業を対象にした経営コンサルタントですが、この数年で社長より話を聴くのは「現場の人が足りない」という溜息です。10年前なら安価で若い人材を雇用できたのですが、最近はどんなに初任給を上げてもなかなか人が集まらない。会社によっては新規採用した方と、古参社員の給与が逆転してしまい、社内に不穏な雰囲気が流れてしまうという話もあります。
人手が不足しているが、次々に来る受注には対応しなければならない。となると、現場の作業のうち、「多少手を抜いても大丈夫だろう」というものは省いてしまう、という考えに至っても致し方ないのです。特に工場での加工において、最終の品質チェックは省きやすい工程の一つです。消費者のことを考えると決して怠ってはいけないのですが、クレームがなければそのまま出荷してしまうというのは現場、特に中小企業ではよくある話なのです。今回の美郷町の原因文からは、そんな背景が透けて見えます。

今回のお詫び文にはこのようにあります。

「ラップ掛け」の担当1名が昼休憩に入ったため、「牛肉のカット、トレイ盛り」の担当がそのまま「ラップ掛け」の作業を行い、チェック体制が1名抜けてしまいました」

本来は2名で行う作業が、余剰人員がいないために1名になってしまった。2014年に世間を騒がせた「すき屋ワンオペ問題」と根っこは同じなのです。
当初の設計では3名必要、とされている作業も、人出不足がここまで深刻になると2名になり、ついにはワンオペとなってしまいます。すき屋の事件からすでに5年が経過していますが、自体は改善どころかむしろ中小企業を中心に悪化しているといわざるを得ません。

どの業界も人出不足ですが、とりわけ食品加工業は必要な人員を確保するために苦心している業種の一つです。筆者は、仕事で様々な工場を訪問する機会がありますが、零細企業の場合は若手が全く採用できず、社長含めて従業員の年齢は60歳を大幅に超えています。工場で働くシニア世代は、長年の経験があるため手際は非常にスムースです。
ですが、目が悪くなり、細かな傷や痛みに気が付かない、手元が狂い、不良品が増えている事が多いのです。
社長も誰かに引き継ぎたいものの、子供にはこんな大変な仕事は任せることは不憫だし、自分もやめたいけれども長年働いていた従業員には迷惑がかかるからと、ため息がいつも聞こえてきます。

外国人技能実習生に頼る会社もあります。
主に東南アジアから来日した外国人技能実習生は、20代でまだ若く、まじめですし、工場の単調な作業も黙々と取り組んでいます。「文句ばかり言ってさぼりがちな日本人よりもずっと良い!」と絶賛している社長もいるほどです。
低賃金で酷使する、というニュースが先行してあまりいいイメージを持たない読者もいらっしゃると思いますが、それは一部の話。ほとんどの会社では日本人の正社員と実習生の仲は良く、社長も実習生に信頼を置いています。
しかし、外国人技能実習生は1社あたりの受け入れ人数に限りがあるため、特に会社の業績が良い場合は、外国人技能実習生を入れても人手が足りないのです。

もう一つは、実習期間があること。せっかく技術を伝えて立派に育っても、慣れてきたころには実習期間が終了して帰国してしまいます。若いし、素直でかわいいからもっと会社にいてほしいんだ、と嘆く経営者は多いのです。

結局、牛肉脂身騒動とは、現在人手不足を引き起こしている日本の労働環境が顕著な形で現れたものといえるのです。

この記事を書いた人
庄司桃子

しょうじ・ももこ/中小企業診断士。中小企業向けの経営コンサルタント。従業員面談や研修を通した組織活性化と、収益や資金繰り対策を得意としています。日ごろから地域の美味しい特産品とお酒、そして温泉旅行が欠かせません。そんな自分に特産品を購入して節税として控除できる「ふるさと納税」は夢のようです。

フォローする
返礼品ニュース
フォローする
タイトルとURLをコピーしました